【自由設計】アンティーク家具に観葉植物。居心地のいい土間のある家

※本記事は住宅情報WEBマガジンDaily Lives Niigataによる取材記事です。

開放的な土間が描かれた自由設計のプラン

田んぼと畑と住宅が入り交じる、昔ながらの集落内に新築をしたHさん夫婦。

集落内で目を引く白い建物は、ご主人の実家の敷地内、元々は畑だった場所に建てられた。

「以前は秋葉区内のアパートに住んでいましたが、子どもが生まれると手狭に感じ始め、音も気になるようになりました。そんな時に総合住宅展示場に見学に行ったら、家を建てたいと思う気持ちが高まっていったんです」(ご主人)。

はじめは大手ハウスメーカーの住宅を見ていたが、その後知り合いの新築の家を手掛けた地元ビルダーに惹かれ、その会社のオープンハウスに足を運ぶようになったという。

「9割くらいの気持ちでその会社に依頼しようと思っていたんですが、あまりにも他の会社を見ていなかったので、東区物見山で開かれていた『物見山みはらしの丘住宅祭』に遊びに行ったんです。そこで訪れたモリタ装芸さんのモデルハウスで『設計だけでもしてみますか?』とご提案を頂いたので、お願いしてみることにしました」とご主人。

「後日、設計を担当した須田達則さんに図面を見せて頂くと、リビングや土間が広く設計されていたのが印象的で、帰りの車の中で妻と『めっちゃよかったね』と話しながら帰りました」(ご主人)。

その後、元々依頼しようと思っていた住宅会社にも設計の依頼をしたが、須田さんのプラン以上に自分たちのイメージに合っているという実感は得られず、モリタ装芸に依頼を決めた。

 

部屋のように使える、ゆったりとした玄関

元々細長いビニルハウスがあった土地に建てられた家は、南東側の道路に沿うように佇んでいる。

南の庭側から見ると2つのボリュームの箱が組み合わせられているように見えるが、ポーチがある北側から見るとシンプルな形の2階建てに見える。

ゆとりあるポーチは3畳の広さがあるので、天気が悪い日でもゆとりを持って出入りができるし、ちょっと立ち話をするのにも便利だ。

そしてこのドアを開けると、H邸の大きな特徴でもある広い玄関土間につながる。

鉄骨階段部分やホール部分までを含めたこの玄関の広さは7.5畳。土間部分だけでも4.5畳と余裕がある。

「私は専門学校を出てからずっとトリマーの仕事をやっていました。2018年からは秋葉区で自分の店を4年程運営していましたが、家が完成したタイミングでお店をたたみ、今は知り合い限定で、この土間や2階の個室でトリミングをしています」と奥様。

サイドにある擦りガラス入りの地窓が玄関全体を明るく照らしており、奥には庭へと通り抜けられるテラスドアが設けられている。

「玄関ドアを開けた時に、正面に外が見えるのがいいですね。植物が置かれた土間に憧れがありましたし、お客さんが来た時にここでベンチに座って話したり、子どもが捕まえてきた虫を育てるのにも広い土間が役立っています」(奥様)。

土間に設けられたグレーの鉄骨階段は奥様のこだわりで、軽やかなデザインが空間を一層広く感じさせる。

階段下に置かれたアンティークの白いガラス戸棚は以前から奥様が使ってきたもので、そこだけ時間の流れが止まっているようだ。

「独身の頃から家具や雑貨が好きで、松本市にあるVICTORIAN CRAFTや、福島市にあるbiji、OLD DAYSなどに出掛けていました。この戸棚はbijiで買ったものですね」と奥様。

そして、奥にある大きなガラスが入ったオーダー建具を開けるとリビングにつながる。

 

勾配天井のリビングから庭を望む

引き戸を開けると左側に見えるのが9畳程のリビングだ。

南東側には掃き出し窓とFIX窓が並んでおり、そこから入った光が開放的な勾配天井の空間を明るく照らしている。

奥の壁側にあるのは空間と一体に造作されたTVボード。右端は床が掘り込まれており、カウンターの一角を文机のように使うことができる。

オークの床にオークのTVボード。壁はシンプルな白いクロスで仕上げられており、置き家具が引き立つようにまとめられているのも特徴。

その中でひときわ目を引くのがヒラシマのSPAGO Circle Tableだ。美しいウォールナット材の天板は縁が削り出されており、それがシンプルな円テーブルのアクセントになっているのはもちろん、うっかり飲み物をこぼした時には堤防の役割を果たしてくれる。

「新築を機に新しく買った家具は、この円卓とダイニングテーブルくらい。子どもがもう少し大きくなったらソファなども買い替えていきたいと思っています」(奥様)。

ソファ側から外を見れば、木塀によってプライバシーが確保された庭が望める。

窓の外には濡れ縁のようなウッドベンチが設けられているが、こちらはご主人が希望したもの。

「はじめはウッドデッキをご提案頂いていましたが、バーベキューをする時に、デッキをベンチように使えたらいいなと思ったんです」とご主人。

掃き出し窓の上の外壁部分にはご主人が取り付けた金具があり、夏場はそこにシェードを取り付けて日陰をつくりながら外での食事やプールを楽しんでいる。

 

省スペースで機能的なL字型キッチン

リビングの隣はダイニングとキッチン。

キッチンは少し奥まった場所にあり、リビング・ダイニング・キッチンそれぞれが一続きの場所にありながらも、それとなくゾーニングされている。

キッチン前の壁は少し高めにつくられており、ダイニング側からはワークトップの様子が見えにくい。カフェの客席と厨房のようでもあり、それが整った印象をつくり出している。

キッチン内は決して広い空間ではないが、L字型キッチンを採用して作業性を高めているのが特徴だ。冷蔵庫を壁で囲って隠したりダイニング側から目立たない位置にパントリーやカップボードを配したり。利便性と美観の両方がよく考えられている。

「でき上がった料理は目の前のカウンターに並べて簡単に渡せますし、冷蔵庫もパントリーも手が届きやすく作業がしやすいですね」(奥様)。

そしてもちろん、キッチンに立てば目の前のダイニングはもちろんのこと、奥のリビングや庭までを見渡すことができる。

しかし、全てを見せるのではなく、ソファがある場所は腰壁とシェルフで程よく目隠しされていたり、意図的に視線を切る工夫がなされている点も見逃せない。

また、キッチンと玄関の間にショートカット動線が設けられており、買い物帰りには短い距離で荷物を運び入れることができる。

 

Wボウルの造作洗面台で忙しい朝も快適に

キッチンの裏手には、浴室・脱衣室・トイレ・洗面コーナーが無駄なく集約されている。その水回りゾーンの最初に現れるのが造作洗面台だ。

Wボウルの造作洗面台には間接照明が仕込まれており、ホテルライクな雰囲気を醸し出している。キャビネットの扉の面材はラワンベニヤをダークブラウンの塗料で着色したもの。黒いメラミン樹脂のカウンターと相まってシックさを演出している。

「アパートでは洗面台を使う時間が主人と重なることが多く、どちらかが待っていなければなりませんでした。Wボウルになった今はその待ち時間がなくなりましたね」(奥様)。

ちなみに左がご主人用、右が奥様用。タオル掛けもそれぞれ用意されている。

 

物干し・収納・寝室の便利な回遊動線

個室以外のすべての機能が詰め込まれた1階に対し、2階は3つの個室とウォークインクローゼットが配されている。

階段と廊下が中央にあり、その周りに各部屋が配されたプランだ。

また、廊下の奥の窓辺は物干しスペースになっていて、ここで乾かした洗濯物はすぐ隣にあるウォークインクローゼットに短い距離で収納できる。

このウォークインクローゼットはそのまま寝室に通り抜けられる設計で、寝室から再び廊下へと1周りして戻ることもできる。

ちなみにこのウォークインクローゼットに見られる下部の棚板は、DIYが好きなご主人によるものだ。

3つある個室の内の一室は奥様の部屋。

ここでトリミングをしたり、趣味のレザークラフトをしたり。創造的なことを楽しむ場所として活用している。

 

変化に対応できる包容力のある住まい

この家を設計した須田さんは、設計意図についてこう語る。

「家の北西側にご主人の実家とビニルハウスがありましたので、適度なプライバシーを保つために、道路がある東南側にリビングを配置して外へと開くプランにしました。そのために、水回りは実家側に固めています。道路沿いにはフェンスを建てて、外からの視線を遮りながら囲われ感もつくり出しました。また、広い玄関土間をご希望されていたことから、自ずと2階に対して1階のボリュームが大きいプランになっています」。

「僕はDIYが好きで妻は家具や雑貨を選ぶのが好き。外観も内観もシンプルで、手を加えることが楽しみになる家ですね」とご主人。

外に置かれた大きなルーバー付きのカウンターもご主人が造ったもので、この中にはエアコンの室外機が隠されている。

「家づくりでやりたかったことが全部できたので不満がありません。それから、アパートでは子どもが出す音が気になっていましたが、今はその心配もなくなり伸び伸びと過ごしています」(奥様)。

今後ご主人はDIYで、奥様はお気に入りの家具を選びながら、理想の空間をつくり込んでいくのが楽しみだという。シンプルな空間はそんな変化を受け止めてくれる包容力を備えている。

 

H邸
新潟市秋葉区
延床面積 105.63㎡(31.95坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 2021年12月

取材・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平

 

シンプルと創造