【自由設計】鰻の寝床のような土地に立つ、細長い2階リビングの家

※本記事は住宅情報WEBマガジンDaily Lives Niigataによる取材記事です。

間口が狭い祖母の土地を譲り受け、新築計画を進める

30代のIさんご夫婦。結婚して2年が経過した頃に家づくりを考え始めたという。

「妻の友達が家を建て始めたタイミングでもあり、いずれ建てるのであれば早い方がいいかなと考えて情報収集を始めたんです」とご主人。

住宅相談サービスの『住まいNET新潟ラウンジ』を訪れ、そこで手に取ったモリタ装芸のパンフレットの中に定額制注文住宅『ROMO』を見つけた。

坪数に応じて金額が明示されているROMOに興味を持ち、当時新潟市東区物見山に建てられたROMOのモデルハウスを訪問したという。

「そこで営業の長谷川さんに対応をして頂きました。その後に江南区天野にあったROMOのモデルハウスも見て改めていいなあと思っていたんですが、土地をどうしようか?というところで止まってしまいました」(ご主人)。

そんな時ご主人のお母様が、ご主人の祖母の家が立つ土地を使ってみては?と提案したという。

「祖母は施設に入っていて、祖母の家には誰も住んでいなかったんです。ただ、間口がとても狭い土地でしたし、その家は部屋がこま切れで、暗くてじめっとしていて…。ここに快適に住める家が建てられるとは想像ができませんでした。そうこうしているうちに、母の方で知人の工務店にプランニングを依頼していて、図面を提示して頂いたんです。それを見た時に『この土地でもちゃんと家が建つんだ!』と思いました」(ご主人)。

それをきっかけに、元々いいなと思っていたモリタ装芸にも連絡し、改めてプランニングを相談。2社のプランを見比べて、より魅力的に感じたモリタ装芸を選び家を建てることにした。

 

ガルバリウム鋼板と塗り壁のシンプルなファサード

土地の間口は5.1m、奥行は20m。細長い30.89坪の土地だ。

隣地境界から一定の距離を取ってつくられた建物は、間口2間(3.64m)、奥行8間(14.56m)と敷地を無駄なく使うように建てられている。

建物手前には2台分の駐車スペースを確保しており、建物右手には、迫り出した2階の床の下を通りながら奥の玄関へと向かうアプローチがある。

2階の外壁はガルバリウム鋼板で仕上げられているが、日々行き来する1階部分は質感豊かな塗り壁「ジョリパッド」仕上げ。

L字型に迫り出した2階の床が軒の役割を果たし、雨にあたることなく駐車場と玄関を行き来できる。

 

中央に玄関・中庭・階段をまとめ、無駄のない動線に

玄関はご主人の自転車が置ける広めの土間空間で、奥のFIX窓越しに坪庭を望める。

右手に見える帆布のカーテンの中は下足入れ。その隣には上着がかけられるハンガーバーもあり、収納スペースもバランスよく確保されている。

自転車の横には漆喰壁が見られるが、こちらはIさん夫婦がDIYで仕上げたものだ。

「建物形状が長くなる土地でしたので、玄関を建物の手前ではなく真ん中近くに配置し、各部屋へと向かう動線を短くしています。同じような考え方で階段も建物の真ん中近くに配置しています。また、中庭を取ることで建物は小さくなるんですけど、その周りの部屋に光を採り込むことができ、空間が小さくなる以上のメリットを得られるようにしています」と話すのは、設計を担当した須田達則さん。

壁側に収納を確保している玄関は少し光が抑えられているものの、中庭から入った外の光が廊下や階段を印象的に照らしている。

廊下に立てば抜け感を感じられるため、間口が狭い建物でありながらも窮屈な感じはしない。

上の写真の奥に見える部屋は道路側から見える5.25畳の個室で、現在は予備室となっている。

こちらの部屋から廊下を見たのが下の写真。

上の写真の突き当たりを右に曲がったところに8畳の寝室がある。

こちらの寝室は、真ん中に間仕切り壁をつくり、必要に応じて2室の子ども部屋にもできる仕様。家族構成の変化に柔軟に対応できるように考えられている。

寝室からはプライバシーが保たれた中庭を眺められ、普通に建ててしまっては暗くなりがちな建物奥に光と潤いをもたらしている。

中庭は日々階段を上り下りする際にも目を楽しませてくれる存在だ。

「以前の建物は1階が真っ暗でしたが、この家は中庭から朝日がたっぷり入ってくるんです。この土地でも日が入るんだ!って驚きましたね」(ご主人)。

「遊びに来る人も、階段を上がりながらこの中庭を見て『わーっ!』て驚いてくれます(笑)」(奥様)。

 

庭木を望む廊下を進みリビングへ

階段を上がったところは中庭に面した廊下兼ホール。

2階に上がった瞬間に明るさが何倍にも増した。

窓辺には造作収納がつくられており、カウンターも窓や壁に沿って繋がっている。

左奥には脱衣室があり、そこで乾かした洗濯物は隣の家事スペースで畳める設計だ。

洗面スペースを脱衣室の外に出したことで、一般的な1坪のスペースながらも物干しがしやすい脱衣所ができ上がった。

「前住んでいたアパートの脱衣所が狭かったので、広く感じられるように洗面スペースと脱衣所を分けてもらいました。洗濯物は脱衣所と浴室に干しています。サーキュレーターを回すと乾きがいいんですよ」(ご主人)。

一方、洗面スペースは脱衣所の手前のスペースにぴたりと納まっている。

コンパクトな洗面台でありながらも、造作のキャビネットやニッチのデザイン、タイルや鏡など、すべてが美しくまとまっている。

よく「玉子焼きを食べればその寿司屋の力量が分かる」と言われるが、この洗面スペースには、モリタ装芸の美意識と技術を知るのに十分な要素が詰めこまれている。

洗面スペース前から中庭を見たのが下の写真。

長方形ではなく台形につくられた中庭は、2階ホールに斜めのラインをつくり出し、流れるように滑らかな動線を叶えている。

少し進んだところから見たのが下の写真。

延床面積27坪とは思えない奥行き感。それは列車の中のようでもあり、住宅の内部とは思えない非日常感がある。

一段上がった奥の空間がLDKで、その段差が違う空間へと切り替わることを暗に知らせてくれる。

水回りとLDKを建物の両端に配することで、LDKをより落ち着ける場にしているのもポイントだ。

自ずと家事動線は長くなる。しかしながら、細長い廊下を歩くという日常の所作が空間の広がりを体感することにも繋がっているし、廊下からは中庭の庭木を眺めることができる。

洗濯機の音を遠くに感じつつ、ダイニングでお茶を飲みながら洗濯が終わるのを待つ。休日の朝はそんなリラックスした時間が流れていることを想像させる。

 

2.7mの造作ソファで音楽を楽しむ暮らし

リビングから廊下を振り返った時の奥行き感も気持ちいい。

廊下の窓辺のカウンター下が収納スペースになっており、そこにご主人のCDコレクションが並んでいる。

「洋楽・邦楽どっちも好きで、フジロックにもよく行っていました。邦楽はくるりやSUPERCARが好きですね。アパートではCDは置いているだけであまり聞いていなかったんですが、この家に住んでからまた聴きたいと思うようになり、最近コンポを買ったんですよ」とご主人。

コンパクトで主張しないTVボードにはJVCのミニコンポ『EX-S55』がテレビと一緒に置かれている。

小さなサイズながらも、滑らかで透明感のある音色が2つのウッドコーンスピーカーから流れ、リビングに一層のリラックスムードをつくり出す。

その向かい側にあるのはモリタ装芸が得意とする造作ソファ。

2.7m幅の大きなソファは、ピタリと壁にくっついており、その大きさのわりには空間に圧迫感を与えることがない。そこから中庭を眺めるのがご主人のお気に入りだ。窓辺にはさりげなく肘掛けも付いている。

一方奥様はリビングと廊下の間にある段差に腰掛けて、同じように外を見て過ごす時間が好きだという。

造作ソファは座面が低めに、奥行は深めにつくられており、そのゆったりとしたプロポーションもくつろいだ雰囲気をつくるのに一役買っているようだ。

 

低い壁がキッチンとリビングを緩やかに分ける

LDKの広さは16畳。

その手前半分がリビングで、残りの半分がダイニング・キッチンになっている。

その間にはシナ合板の壁があるが、キッチン側から見るとそこには調理家電やゴミ箱があり、食品ストックを入れる収納が備えられている。

「最後に行きつく場所であるLDKが広く感じられるように勾配天井にしています。キッチンを対面型にすると食事をするスペースが狭くなってしまいますので、『ダイニングを含めたキッチン』という形で壁付けキッチンを提案しました。直径120cmの円形のダイニングテーブルも当社で製作をさせて頂いたものですが、四角いテーブルよりも周囲をまわりやすいというメリットがあります」と須田さん。

床材は木目がしっかりした栗の無垢フローリングで、キッチン部分は石のような質感のあるタイル仕上げ。こちらは、小針にあるPePeのモデルハウスで使用しているタイルと同じものを採用したという。

「タイルの床は水をこぼしても気にならないのがいいですね。キッチンの吊り棚もモリタ装芸さんのモデルハウスで見たものを造りつけて頂きました」とご主人。

面積の関係上パントリーはないが、特に不便さは感じていないという。

 

祖母の家の片づけを経験し、シンプルな暮らしを目指す

どこを見てもすっきりと片付いているI邸。

収納スペースが特別多いわけではないが、どのようにして整った空間を維持しているのだろうか?

「元々あったおばあちゃんの家を解体する前に、家の中にあったものをひたすら捨てたんです。その作業をしているうちに、新しい家に置くものはなるべく選びたいと思うようになりました」とご主人。

「スペースは限られていますので、大事なものだけを持つようにしたいんです。この家の収納もすべてが埋まっているわけではなくて、まだけっこう余裕があるんですよ」と奥様。

そんな意識の変化が“整った暮らし”につながっている。また、この家に住んでから花を飾る習慣ができたという。

「ここに住んでから花瓶をいくつも買うようになりましたね。アパートに住んでいた時より掃除もこまめにするようになりました。よく二人で『いい家だね』って話しながら過ごしています」(奥様)。

「あと、家づくりについて僕たちは分からないことが多く、須田さんからいろいろなことを教えて頂いたり、提案を頂いたりしました。それがとてもありがたかったですね。図面を見てワクワクしましたし、素材を選ぶ過程も楽しかったです。家が完成した時はうれしさと同時に少し寂しさもありました」とご主人は振り返る。

「この狭い土地に家が建つのだろうか…?」

そんな不安から始まったIさん夫婦の住まいづくりだが、完成した住まいへの満足度の高さは、美しく保たれた暮らしぶりに現れている。

須田さんは厳しい土地条件を紐解き、建物中央に玄関・中庭・階段・廊下をまとめることで、あらゆるバランスが取れたプランを実現した。

モリタ装芸の設計メンバーが得意とする完全自由設計の住宅建築。一見するとシンプルな建物だが、I邸にはそのテクニックと感性が存分に詰め込まれている。

 

I
新潟市東区
延床面積 89.68㎡(27.12坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 2022年3月

写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平